製造業の生成AI活用事例|導入方法とPoC・ROIの進め方

「人手不足が深刻で、ベテランの技能をどう次世代へ引き継ぐべきか悩んでいる」

「生成AIが製造業でも使えると聞くものの、自社の現場でどこから手をつければよいのか分からない」

——工場長やDX推進をご担当される方の多くが、このような課題に直面されているのではないでしょうか。

本記事では、製造業における生成AIの活用方法と具体的な事例を整理したうえで、導入を成功に導くPoC(概念実証)の進め方やROI(投資対効果)の考え方まで、順を追ってご紹介します。公的機関のデータや実際の導入事例をもとに解説しますので、読み終えるころには「自社のどの業務から生成AIを取り入れるべきか」という道筋が具体的に描けるようになります。製造現場の生産性向上と技能継承を両立させる第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。

製造業で生成AIの導入が加速する背景と最新動向

製造業で生成AIの導入が加速する背景と最新動向の解説図(画像は生成AIを用いて作成しています)

まずは、なぜいま製造業で生成AIへの注目が高まっているのか、最新のデータとともに全体像を押さえておきましょう。背景を理解することで、自社が取り組むべき優先順位も見えやすくなります。

製造業の生成AI業務利用は55.2%に到達

総務省が公表した『令和7年版情報通信白書』によると、生成AIを「業務で使用する」と回答した企業の割合は製造業で55.2%にのぼり、全業種のなかでも高い水準を示しています。また、生成AIを「積極的に活用する」または「活用する」方針の企業は全体で49.7%となり、前年度(2023年度)の42.7%から着実に増加しました。製造業は、生成AI活用において先行する業種のひとつといえます。

参照元:総務省『令和7年版情報通信白書』企業におけるAI利用の現状(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd112220.html

製造業が直面する人手不足と技能継承の課題

製造業で生成AIへの期待が高まる背景には、慢性的な人手不足と、熟練技能者の高齢化にともなう技能継承の難しさがあります。ベテランがもつ「暗黙知」を、いかにデータとして残し、若手や現場全体で共有するかは、多くの製造業が抱える共通の課題です。生成AIは、こうした言語化が難しいノウハウの整理や、膨大な社内文書からの情報検索を支援できる点で、解決策のひとつとして注目を集めています。

生成AIと従来型AIの違い

生成AI(Generative AI)とは、大規模言語モデル(LLM)などを基盤に、自然言語の指示に応じて文章の作成・要約・翻訳・分類といった新しいアウトプットを生み出す技術の総称です。従来型のAIは、不良品の検知や数値予測など「決められた答えを出す」用途が中心でした。一方で生成AIは、文章・要約・分類・下書きの作成といった「新しいアウトプットを生み出す」点に強みがあります。製造業では、検査や予測には従来型AI、手順書作成や社内問い合わせ対応には生成AI、というように両者を組み合わせて使うことで効果を最大化できます。

製造業における生成AIの主な活用方法

製造業における生成AIの主な活用方法の解説図(画像は生成AIを用いて作成しています)

続いて、製造業で生成AIが実際にどのような業務へ活用できるのかを整理します。代表的な活用領域は、大きく次の4つに分けられます。

活用領域現場の課題生成AIでできること
品質検査目視検査の属人化・見逃し画像認識による外観検査の自動化、不良原因レポートの作成支援
手順書・標準作業書作成・更新の負担が大きい下書きの自動生成、改訂時の文面更新、多言語マニュアルの翻訳
社内QA・ナレッジ検索必要な情報がすぐ見つからない社内文書を横断したRAG検索による即時回答
需要予測・設備保全在庫の過不足、突発的な故障過去データの分析による予測、異常の事前検知

品質検査・外観検査の自動化

製造業で生成AIやAI画像認識の導入がもっとも進んでいる領域が、品質検査です。これまで人の目に頼っていた外観検査を自動化することで、検査精度の向上とヒューマンエラーの削減を同時に実現できます。さらに、品質不良が発生した際の原因分析レポートを、生成AIが過去の事例を踏まえて短時間で作成する活用も広がっています。

手順書・標準作業書の自動生成と更新

作業手順書や標準作業書(SOP)の作成・更新は、多くの工数を要する業務です。生成AIを使えば、要点を入力するだけで下書きを自動生成でき、設備や工程の変更にあわせた改訂作業も効率化できます。海外拠点向けに多言語化する際の翻訳支援も、現場で評価されている使い方のひとつです。

社内QA・ナレッジ検索(RAG)

RAG(検索拡張生成)とは、社内に蓄積された文書を検索したうえで、その内容に基づいて生成AIが回答を生成する仕組みです。(※注:RAGはRetrieval-Augmented Generationの略で、外部の知識を参照しながら回答を生成する技術を指します。)設計基準や過去のトラブル対応事例など、社内に散在する情報を横断的に検索できるため、調べものにかかる時間を大幅に短縮できます。誤った情報の生成(ハルシネーション)を抑えやすい点も、業務利用に適した特長です。

需要予測・設備保全

過去の生産実績や市場動向を分析することで需要予測の精度を高め、余剰在庫や欠品のリスクを軽減できます。また、設備の稼働データから異常の予兆を検知する予知保全に活用すれば、突発的な設備停止を未然に防ぐことにもつながります。

国内製造業の生成AI活用事例【他社の公開事例】

製造業における生成AIの活用事例の解説図(画像は生成AIを用いて作成しています)

まず、国内の製造業各社が公表している生成AIの活用事例を紹介します。大企業の全社展開から中堅企業の現場カイゼンまで、規模を問わず導入が進んでいます。

パナソニック コネクト:全社員約12,400人に生成AIを導入、1年で18.6万時間を削減

パナソニック コネクトは2023年2月から、国内全社員約12,400人を対象に自社向けAIアシスタント「ConnectAI」を展開しています。公式発表によれば、導入1年で全社員合計18.6万時間の労働時間を削減し、1回の利用あたり平均約20分の時間短縮につながっています。検索エンジンの代わりといった軽い用途から、戦略策定の基礎データ作成や商品企画など、より生産性向上の幅が大きい使い方へと活用が深化している点も特徴です。

[参照元:パナソニック コネクト 生成AI導入1年の実績と今後の活用構想|Panasonic Newsroom Japan]

トヨタ自動車:AIエージェント「O-Beya」でエンジニアの知見を継承

トヨタ自動車では、社内の専門的な知識やノウハウを蓄積・共有するために、AIエージェントシステム「O-Beya(大部屋)」を活用しています。従業員がAIエージェントに質問を投げかけると、過去の膨大なデータから必要な知識を自律的に抽出・提示し、品質向上や世代を超えた技能継承に役立てられています。

[参照元:トヨタ自動車、エンジニアの知見を AI エージェントで継承へ|Microsoft News Center Japan]

旭鉄工:ChatGPTで現場カイゼンのノウハウを引き出す

自動車部品メーカーの旭鉄工では、社内に蓄積した改善ノウハウ集「横展開アイテムリスト」とChatGPTを組み合わせ、現場の改善検討で過去の事例や注意点を自然言語で引き出す取り組みを進めています。属人化しがちなカイゼンの知見を組織全体で使いやすくする活用例として紹介されています。

[参照元:ChatGPTで製造現場カイゼンを簡単に、過去事例や注意点を引き出す生成AI活用事例|MONOist]

弊社EQUESの生成AI開発支援事例

続いて、弊社EQUESが開発を伴走支援した製造業・製薬業の事例です。

ここからは、弊社・株式会社EQUESが実際に支援した製造業・製薬分野での生成AI活用事例をご紹介します。いずれも、現場の課題に合わせて小さく検証し、成果につなげている取り組みです。

支援事例1:製造現場の記録をAI-OCRで自動化(Cyto-Facto様)

細胞治療のCDMO(受託製造開発)を手がけるCyto-Facto様では、製造現場の記録業務に課題がありました。弊社は、AI-OCR技術を用いて手書きや紙の記録を自動でデータ化し、GMP(製造管理・品質管理基準)に対応したシステムの開発を支援しました。記録の正確性とトレーサビリティを高めながら、現場の入力負担を軽減する取り組みです。

参照元:株式会社EQUES 導入事例(Cyto-Facto様)(https://eques.co.jp/works/251001/

支援事例2:熟練技術のシステム化と3D CAD自動生成(SOLIZE PARTNERS様)

ものづくり企業のDXを支援するSOLIZE PARTNERS様とは、熟練技術者のノウハウをシステム化する検証に取り組みました。3D CADの自動生成や、設計ナレッジを提案するAIの実現可能性を、PoC(概念実証)を通じて確認しています。属人化していた設計知見をAIで再現し、製造業の「はじめの一歩」を支援した事例です。

参照元:株式会社EQUES 導入事例(SOLIZE PARTNERS様)(https://eques.co.jp/works/251023/

支援事例3:品質統括部のスモールスタートDX(ロート製薬様)

ロート製薬様の品質統括部では、製品スペック(仕様書)作成の自動化から生成AI活用をスタートしました。いきなり大規模な改革を目指すのではなく、効果が見えやすい業務から小さく始める「スモールスタート」のDX戦略により、現場に無理なくAIを定着させています。

参照元:株式会社EQUES 導入事例(ロート製薬様)(https://eques.co.jp/works/rohto/

より幅広いAI活用事例については、弊社のコラム「AI活用で業務効率化!成功事例から学ぶ導入の秘訣」もあわせてご覧ください。

生成AI導入を成功させるPoCの進め方とROIの出し方

生成AI導入を成功させるPoCの進め方とROIの出し方の解説図(画像は生成AIを用いて作成しています)

生成AIの導入は、いきなり全社展開を目指すのではなく、小さく試して効果を確かめるPoC(概念実証)から始めるのが定石です。ここでは、製造業における生成AI導入を成功に導くための進め方と、ROIの考え方を解説します。

PoCから始める理由と「PoC死」のリスク

調査会社ガートナーが2024年7月に公表した予測では、2025年末までに生成AIプロジェクトの少なくとも30%がPoC(概念実証)後に放棄されるとされました。その要因として、データ品質の低さ、リスク管理の不備、コストの増大、ビジネス価値の不明確さが挙げられています。検証だけを繰り返して前に進まない状態は「PoC死」とも呼ばれます。やみくもに導入を進めるのではなく、目的と評価基準を定めたうえでPoCに取り組むことが、成功への分かれ道となります。

参照元:Gartner「Gartner Predicts 30% of Generative AI Projects Will Be Abandoned After Proof of Concept By End of 2025」(https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/2024-07-29-gartner-predicts-30-percent-of-generative-ai-projects-will-be-abandoned-after-proof-of-concept-by-end-of-2025

PoCの進め方|4つのステップ

  1. 課題と目的の明確化:「どの業務の、どの課題を解決したいのか」を具体的に定義します。
  2. 評価基準(KPI)の設定:検査時間の短縮率や精度など、成功と判断する数値基準を事前に決めます。
  3. 小規模での検証:対象範囲を絞り、限られたデータと期間(目安は1〜3か月)で効果を確かめます。
  4. 評価と本番化の判断:結果を評価基準と照らし合わせ、横展開するか、改善して再検証するかを判断します。

ROI(投資対効果)の考え方

ROIは「得られた効果 ÷ 投じたコスト」で考えます。生成AIの場合、検査工数や文書作成時間の削減といった定量的な効果に加え、技能継承の促進やヒューマンエラーの低減といった定性的な効果も含めて評価することが大切です。PoCの段階で「どの指標で効果を測るか」を決めておくと、本番化の意思決定がスムーズになります。

失敗しないためのポイント

  • 現場の担当者を巻き込み、運用に乗せられる体制をつくる
  • 「PoCのためのPoC」で終わらせず、本番化の基準を先に決めておく
  • セキュリティや社内情報の取り扱いルールを整備する
  • 必要に応じて、知見のある外部パートナーと伴走しながら進める

製造業の生成AI導入によくある質問(FAQ)

製造業の生成AI導入によくある質問(FAQ)の解説図(画像は生成AIを用いて作成しています)

Q. 生成AIの導入にはどのくらいの費用がかかりますか?

A. 内容や規模によって幅がありますが、小規模なPoCから始めれば、いきなり大きな投資をせずにスタートできます。弊社のAI相談サービス「AI×DX寺子屋」のプランAは月額20万円で相談し放題、PoC支援サービス「ココロミ」はスタンダードプランが月々250万円からとなっており、目的に応じてプランをお選びいただけます。前者は専門家への相談とアドバイスが中心、後者はPoCの設計から検証までを専門家が伴走する内容で、支援の範囲が異なります。

Q. 専門の人材がいなくても導入できますか?

A. はい。生成AIの専門人材が社内にいなくても、外部の伴走支援を活用することで導入を進められます。弊社では、東京大学松尾・岩澤研究室発のAI専門家集団が、企画から検証・定着までをご一緒します。

Q. 社内情報の漏えいが心配です。安全に使えますか?

A. 入力データの取り扱い範囲を限定したり、社内に閉じた環境で運用したりすることで、情報漏えいのリスクを抑えられます。導入時にセキュリティ要件を整理することが重要です。

Q. まずは小さく始めることはできますか?

A. 可能です。効果が見えやすい一つの業務に絞ってPoCから始める「スモールスタート」は、製造業でも成果につながりやすい進め方です。

製造業の生成AI導入は弊社EQUESにご相談ください

製造業の生成AI導入は弊社EQUESにご相談くださいの解説図(画像は生成AIを用いて作成しています)

「自社のどの工程から生成AIを始めるべきか」「PoCをどう設計すればよいか」とお悩みでしたら、ぜひ弊社・株式会社EQUESにご相談ください。弊社は東京大学松尾・岩澤研究室発のスタートアップとして、製薬・製造業の領域に強みをもち、AIを用いた伴走型技術開発でお客さまの課題解決を支援しています。

たとえば、品質保証(QA)文書の業務効率化では、簡単な質問に答えるだけで必要書類をAIが自動作成する「QAI Generator」や、複数のQA文書の齟齬をAIが自動検出する「QAI Checker」をご提供しています。前述のCyto-Facto様やSOLIZE PARTNERS様のように、現場の課題に合わせて小さく検証することから始められます。「何から始めればよいか分からない」という段階からでも、弊社の専門家がていねいに伴走しますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

まとめ

まとめの解説図(画像は生成AIを用いて作成しています)

製造業における生成AIは、品質検査の自動化や手順書作成、社内ナレッジ検索などを通じて、人手不足や技能継承といった構造的な課題の解決に貢献します。導入を成功させるには、いきなり全社展開を狙うのではなく、目的と評価基準を定めたPoCから着実に進めることが重要です。本記事の要点は次のとおりです。

  • 製造業の生成AI業務利用は55.2%に達し、活用が先行している
  • 主な活用領域は「品質検査」「手順書作成」「社内QA・RAG検索」「需要予測・設備保全」
  • Cyto-Facto様・SOLIZE PARTNERS様・ロート製薬様など、現場に合わせた導入事例が生まれている
  • 導入成功の鍵は、PoCで小さく試し、ROIを定量・定性の両面から評価すること

生成AIの導入は、正しい進め方さえ押さえれば、製造現場を大きく前進させる力になります。自社に最適な一歩を踏み出すために、ぜひ弊社EQUESの伴走型支援をご活用ください。

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