「電子カルテの入力や紹介状の作成に追われ、患者様と向き合う時間が足りない」
「最新の医療論文やガイドラインをチェックしたいが、日々の業務で手一杯だ」
病院経営層や医療従事者の皆様は、このようなお悩みを抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、近年注目を集めている「医療LLM(大規模言語モデル)」について、その基礎から具体的な解決策までを解説します。医療LLMを適切に導入することで、書類作成などの事務作業を大幅に短縮し、本来の業務である診療や研究に時間を割くことが可能になります。
LLMは専門的な医療用語を含む文章の読解・要約・生成を得意としており、すでに多くの現場で業務効率化の実績が出始めています。
本記事を読み終える頃には、医療LLMの具体的な活用イメージを持ち、安全に導入するためのパートナー選びの基準までを明確に理解していただけるはずです。
目次
医療LLMとは?基礎知識とできること
まずは、「医療LLM」がどのようなものか、その仕組みと特徴について解説します。
一般的なAIと医療LLMの違い
LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)とは、膨大なテキストデータを学習し、人間のように自然な文章を理解・生成できるAIのことです。一般的なチャットボットとは異なり、文脈を理解して複雑な質問に答えたり、長い文章を要約したりすることができます。
中でも「医療LLM」は、医学論文、診療ガイドライン、匿名化されたカルテ情報など、医療分野に特化したデータを学習、または調整(ファインチューニング)されたモデルを指します。これにより、一般的なLLMでは難しい専門用語の正確な扱いや、医療文脈に即した回答が可能になります。

医療現場で期待される役割
医療業界では現在、医師の働き方改革が喫緊の課題となっています。厚生労働省も医師の労働時間短縮に向けた取り組みを推進しており、その解決策の一つとしてICTやAIの活用が推奨されています。
医療LLMは、診断そのものを行う「医師の代替」ではなく、医師やスタッフを支える「強力なアシスタント」として機能します。
- 事務作業の代行: 退院サマリー(要約)の作成、紹介状のドラフト作成
- 情報収集の支援: 膨大な論文からの情報抽出、薬剤情報の検索
- 患者サポート: わかりやすい言葉での問診対応、説明資料の作成
これらのタスクをAIが担うことで、医療従事者は「人間にしかできない判断」や「患者様とのコミュニケーション」に集中できるようになります。
医療LLM導入で実現できること・活用事例

では、具体的にどのような業務で活用できるのでしょうか。3つの主要なシーンに分けてご紹介します。
1. 文書作成・事務業務の効率化
最も即効性があり、導入が進んでいるのが文書作成の支援です。
例えば、電子カルテの記録から必要な情報を抽出し、「退院サマリー」や「診療情報提供書(紹介状)」の下書きを自動生成することができます。
例えば、弊社の製薬向けSaaS「QAI Generator」では、簡単な質問に答えるだけで必要書類や法務書類をAIが自動作成する機能を実装しており、文章作成時間を5割カット、レビュー時間を7割以上短縮した実績があります。 この技術は、病院内の事務作業にも応用が可能です。
2. 研究・教育・ナレッジ検索の高度化
医療情報は日々更新され、膨大な数の論文が発表されています。これらをすべて人が読み込むことは困難ですが、医療LLMを活用すれば、特定のトピックに関する論文を要約させたり、ガイドラインに基づいた回答を検索させたりすることが可能です。
また、若手医師や学生の教育ツールとしても活用できます。例えば、ベテラン医師の診断プロセスや過去の症例データを学習させることで、教育用のチャットボットとして疑問点に即座に答えるシステムが構築できます。
3. 患者様向けサービスの向上
専門用語が多い医療の説明を、患者様にわかりやすく「翻訳」することもLLMの得意分野です。
検査結果や処方薬の説明文を、患者様の年齢や理解度に合わせて平易な言葉に書き換えることで、インフォームド・コンセント(説明と同意)の質を高めることができます。
また、予約受付や事前問診を行うチャットボットにLLMを搭載することで、より自然で柔軟な対話が可能になり、患者様の不安軽減や受付業務の負担軽減につながります。
医療LLM導入の避けては通れないリスクと課題
医療LLMは非常に便利ですが、人命に関わる分野である以上、リスクへの対策は不可欠です。
ハルシネーション(もっともらしい嘘)のリスク
LLM最大のリスクは、事実に基づかない情報をあたかも事実のように回答してしまう「ハルシネーション」です。一般的な文章作成なら修正で済みますが、医療現場では誤った薬剤量や治療法の提示は許されません。
▶︎対策
AIの回答をそのまま鵜呑みにせず、必ず医師や専門家が最終確認(Human-in-the-loop)を行う運用フローを構築することが重要です。また、回答の根拠となる文献ソースを必ず提示させるシステム設計も有効です。
セキュリティとプライバシー保護
患者様の個人情報(PHR)やカルテデータは極めて機密性の高い情報です。これらを不用意にクラウド上のLLMに入力すると、データがAIの学習に使われ、情報漏洩につながるリスクがあります。
▶︎対策
入力データが学習に利用されない設定(オプトアウト)が可能なセキュアな環境を選ぶことや、個人情報を特定の記号に置き換える「匿名化処理」を行ってからAIに処理させる技術が必要です。また、ローカルLLM(自分のPCやローカルサーバーなどの環境で、インターネットを介さずに直接実行できる大規模言語モデル)を構築することも選択肢の一つです。
また、厚生労働省等のガイドラインに準拠したシステム運用が求められます。
ローカルLLMについて詳しく書いた記事はこちら
医療LLM導入で成功するためのパートナー選びのポイント
医療LLMの導入を成功させるためには、単にAIに詳しいだけでなく、「医療特有の事情」を理解しているパートナーを選ぶことが重要です。
技術力と医療知識の両立
医療AI開発には、最新のLLM技術(RAG構築やファインチューニングなど)と、医療・製薬業界の法規制(GMPなど)への理解の両方が必要です。
弊社、株式会社EQUES(エクエス)は、東京大学・松尾研究室発のAIスタートアップ企業です。AIを用いた「伴走型技術開発」を得意とし、特に製薬・医療分野に強みを持っています。
スモールスタートでの検証(PoC)
最初から大規模なシステムを導入するのではなく、まずは実証実験から始めることをお勧めします。
PoC(概念実証)とは、新しいアイデアやコンセプトが技術的に実現可能か、また、それによって期待される効果が得られるかを、本格的な開発に着手する前に小規模に検証するプロセスです。

弊社のPoCサービス「ココロミ」では、大規模開発を行う前に、具体的な課題に対してAIがどの程度有効かを検証することができます。
PoCについて詳しく書いた記事もございますので、詳しくはこちらからご覧ください。
柔軟なカスタマイズと伴走型支援
病院ごとに抱える課題やシステム環境は異なります。パッケージ製品を導入するだけでなく、自院のニーズに合わせてカスタマイズできる柔軟性が重要です。また、システムを導入したのち、社内で浸透させるために教育を行うことも不可欠です。

「AIDX寺子屋」のような、東大発のAI専門家集団がチャットで相談に乗りながら課題解決をサポートするサービスを活用することで、社内にAI専門家がいなくても安心して導入を進めることができます。
まとめ
医療LLMは、医療現場の働き方改革と医療の質向上を両立させるための強力なツールです。
- 医療LLMとは: 医療専門データを学習・調整し、高度な言語処理を行うAI。
- メリット: 文書作成の自動化、情報収集の効率化、患者説明の補助など多岐にわたる。
- リスク対策: ハルシネーション対策(人の確認)とセキュリティ確保が必須。
- 成功の鍵: 技術力と医療知識を併せ持ち、PoCから伴走してくれるパートナーを選ぶこと。
「まずは何から始めればいいかわからない」「セキュリティが心配だ」という場合も、ぜひ一度ご相談ください。
最先端のAI技術と医療分野への深い知見を持つEQUESが、貴院の課題解決を全力でサポートいたします。
