医薬品GMPとは?製薬現場の課題をAIで解決する治療薬品質の新常識

製薬における医薬品GMP導入を促す記事であることを示す、治療薬とGMPという文字のイメージ

「医薬品のGMPに対応する膨大な文書作成や管理に追われて大変…」

「複雑な管理基準や、いつ来るか分からない監査がプレッシャー…」

製薬の品質保証や製造の現場で、このようなお悩みをお持ちではないでしょうか。高い品質が求められる治療薬だからこそ、GMP遵守は不可欠ですが、その業務負担は決して軽くありません。

この記事では、医薬品製造における品質管理の基準である「GMP」の基本から、多くの現場が直面する具体的な課題、そしてAIのような先進技術を活用してそれらの課題を解決する方法まで、分かりやすく解説していきます。この記事を読み終える頃には、貴社のGMP業務を効率化し、品質保証のレベルを一段階引き上げるための具体的な道筋が見えていると嬉しいです。

※この記事の執筆者である弊社(株式会社EQUES)は、東京大学松尾研究所発のベンチャーとして、AIを用いた「伴走型技術開発」で多くの企業の課題解決をサポートしており、特に製薬分野に強みを持っています。製薬分野のAI導入にご興味がある方は、まずはお気軽にお問い合わせください。

医薬品GMPとは?高品質な治療薬を支える製造管理の基本

医薬品GMPとは、Good Manufacturing Practiceの略で、「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」を意味します。患者さんが安心して医薬品を使用できるよう、製造所における製造管理や品質管理の方法について、国際的に定められた基準です。

医薬品GMPの三原則は以下の通りです。

  1. 人為的な誤りを最小限にすること
  2. 医薬品の汚染及び品質低下を防止すること
  3. 高い品質を保証するシステムを設計すること

医薬品は、医療において人の生命に関わる重要な役割を担っています。万が一、不純物が混入したり、有効成分の量が違っていたりすれば、治療効果が得られないばかりか、深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。

GMPは原材料の受け入れから製品の出荷に至るまでの全工程において、人為的な誤りを最小限に食い止め、汚染や品質低下を防ぎ、一定の品質を保つための仕組みを緻密に定めています。GMPは品質保証の中核であり、この基準を守ることで、のちの有効性や安全性の確保にも繋げることができます。

知っておくべき法律「GMP省令」とその重要ポイント

日本において、医薬品GMPの具体的な内容は、厚生労働省が定める「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」、通称「GMP省令」によって法的に定められています。

このGMP省令は、国際的な基準との調和を図るため、定期的に改正が行われています。近年の重要なポイントとしては、以下のような点が挙げられます。

  • PIC/S GMPとの整合性: 医薬品査察協同スキーム(PIC/S)が定める国際的なGMPガイドラインとの整合性が図られており、グローバルなレベルでの品質保証が求められています。
  • データインテグリティの重視: 記録されたデータが、生成から廃棄に至るまでの全過程において完全で、一貫性があり、正確であることが強く求められています。意図的か否かにかかわらず、データの改ざんや消失を防ぐために、製薬会社全体としての管理体制の構築が不可欠です。

これらの要件に対応するため、製造や品質管理の現場では、より厳格で効率的な業務プロセスの構築が急務となっています。

多くの製薬現場が直面する、医薬品GMP遵守における3つの壁

GMPを遵守し、高品質な医薬品を安定供給することは製薬企業の使命ですが、その道のりにはいくつかの「壁」が存在します。ここでは、多くの現場が抱える共通の課題を3つご紹介します。

課題①:膨大すぎる文書作成と管理

GMP業務において、文書は非常に重要な役割を担います。製造手順書や品質管理記録書、変更管理記録、逸脱報告書など、作成・保管すべき文書は多岐にわたり、その量は膨大です。

従来のExcelや紙媒体での管理では、以下のような問題が生じやすくなります。

  • 属人化: 特定の担当者しかファイルのありかや更新履歴を把握できず、業務が滞る。
  • 非効率な検索: 過去の記録や類似事例を探すのに時間がかかる。
  • 版管理の煩雑さ: どれが最新版の文書か分からなくなり、古い手順書を使ってしまうリスクがある。
  • 整合性の担保: 関連する文書間の整合性を手作業で確認するため、ミスが発生しやすい。

このような状況は、業務効率の低下を招くだけでなく、品質保証上のリスクにも繋がりかねません。

課題②:複雑化する逸脱管理とCAPA

製造工程において、定められた手順や基準から外れる事象(逸脱)が発生した場合、その原因を徹底的に調査し、再発防止策を講じる必要があります。この一連のプロセスがCAPACorrective Action and Preventive Action:是正措置・予防措置)です。

逸脱管理とCAPAは、品質システムの中核をなす重要なプロセスですが、その運用は容易ではありません。原因究明には製造、品質管理、品質保証など複数の部署間での緊密な連携が求められます。また、調査の過程や根本原因、講じた措置などをすべて正確に文書化し、その有効性を継続的に評価する必要があり、非常に複雑で手間のかかる業務です。

課題③:査察対応のプレッシャー

製薬企業は、規制当局(日本では主にPMDAや都道府県)による定期的なGMP査察を受けなければなりません。査察では、GMP省令が適切に遵守されているか、あらゆる記録を基に厳しくチェックされます。

査察官からの質問に対し、関連文書を迅速かつ正確に提示できなければ、不備を指摘される可能性があります。そのため、現場の担当者は「いつ査察が来ても良いように」常に準備を整えておく必要があり、これが大きな精神的プレッシャーとなります。また、査察の際には、膨大な文書の中から要求されたものを探し出すのに多大な工数がかかることも少なくありません。

AI/DXが解決!これからの医薬品GMP業務と治療薬の未来

これまで見てきたようなGMP業務における課題は、AI(人工知能)DX(デジタルトランスフォーメーション)といった先進技術を活用することで、大きく改善できる可能性があります。ここでは、具体的な解決策を3つの視点からご紹介します。

解決策①:AIによる「文書作成・レビュー」の自動化・効率化

膨大な文書業務の負担を軽減する切り札として、生成AIの活用が期待されています。例えば、逸脱報告書や変更管理記録など、定型的ながらも正確性が求められる文書作成をAIがサポートします。

弊社の提供する製薬品質保証のGMP文書業務効率化SaaS「QAI Generator」は、まさにこの課題を解決するためのサービスです。

簡単な質問に答えるだけで、AIが必要な書類を自動で作成します。実際に、文章の作成時間を5割カットし、レビュー時間も7割以上短縮した実績もあります。これにより、担当者はより専門的な判断や分析業務に集中できるようになります。

解決策②:GMP関連情報を簡単に検索できる「GMPナビゲーター」

GMP文書を作成するにあたって、信頼できるソースを提示することは必要不可欠です。そのため、従来のシステムでは、文献調査や専門部署への問い合わせが大量に発生し、業務の妨げになることがしばしば発生していました。大成建設が独自開発したGMP関連情報を一括で検索できるシステム「GMPナビゲーター」は、RAGシステム(※)を使用して、これまでに蓄積された文献や質疑応答などのノウハウのデータと、最新の法規・ガイドラインのデータを合わせてAIに参照させることで、利用者の質問に対して必要十分な情報のみをチャット形式で正確に回答することを可能にしました。これにより、書類作成業務を大幅に効率化させることに成功しました。

※RAGシステム…AIが、外部の知識ベースから関連情報を取得し、その情報を元に回答を生成する技術のこと。

参照元:大正建設HP「生成AIを用いた医薬品の製造・品質管理基準検索システム「GMPナビゲーター」を開発」

解決策③:QMSシステム導入による「逸脱・CAPA管理」の一元化

複雑化する逸脱管理やCAPA(Corrective Action and Preventive Action:品質管理における是正措置と予防措置)のプロセスは、QMS(Quality Management System:品質マネジメントシステム)を導入することで、一元的に管理できます。

システム上で逸脱の発生から原因調査、CAPAの計画・実施、有効性評価までを一気通貫で管理することで、進捗状況が可視化され、部署間の連携もスムーズになります。また、過去の逸脱事例やCAPAのデータを簡単に検索・分析できるため、より効果的な再発防止策の立案にも繋がります。

解決策④:データの一元管理で実現する「データインテグリティ」と「査察対応」の効率化

文書や記録をデジタルデータとして社内で一元管理する体制を整えることは、データインテグリティ(統一性)の確保と査察対応の効率化に直結します。

適切なアクセス権限の設定や監査証跡(誰が、いつ、何を操作したかの記録)機能を備えたシステムを導入することで、データの信頼性が担保されます。さらに、査察時には、要求された情報をシステムから迅速に検索し、正確に提示することが可能になります。これにより、査察準備にかかる工数を大幅に削減し、担当者の心理的負担を軽減することができます。

まとめ

今回は、高品質な治療薬の製造に不可欠な「医薬品GMP」について、その基本から製薬現場が直面する課題、そしてAI/DXを活用した未来の解決策までを解説しました。

  • 医薬品GMPとは:医薬品の品質・有効性・安全性を保証するための製造管理・品質管理の基準です。
  • 現場の課題:膨大な文書業務、複雑な逸脱管理とCAPA、そして査察対応のプレッシャーが大きな負担となっています。
  • AI/DXによる解決策:生成AIによる文書作成の自動化、QMSによる管理の一元化、データの一元管理によるデータインテグリティの確保と査察対応の効率化が、これらの課題を解決する鍵となります。

GMP遵守のための業務は、今後ますます高度化・複雑化していくことが予想されます。しかし、AIのような新しい技術を適切に取り入れることで、業務の効率化と品質保証レベルの向上を両立させることは十分に可能です。

弊社では、AIを用いた伴走型技術開発で、製薬企業の皆様が抱える課題をサポートしています。GMP文書業務の効率化やデータ管理体制の構築にお悩みでしたら、ぜひお気軽にご相談ください。

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