2026年版AIセキュリティ完全ガイド|経営者が知るべき対策法

AIセキュリティ大全 経営者が知るべき対策法 現状把握のためのチェックリスト付き

ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、ビジネスのあり方は劇的に変化しつつあります。ドキュメントの作成、企画の壁打ち、情報収集など、その活用シーンは多岐にわたり、業務効率化の切り札として導入を検討されている経営者の方も多いのではないでしょうか。

弊社が企業のAI業務を支援する中で最近よく耳にするのはこんな声です。

「AIの活用は進めたいが、セキュリティのリスクが正直よく分からず、GOサインを出しきれない」 「社員がChatGPTに会社の機密情報を入力していないか、管理できず不安だ」 「AIによる情報漏洩のニュースを聞くたび、自社は大丈夫かと心配になる」

その漠然とした不安の正体こそ、私たちが今まさに直面している「AIセキュリティ」という新たな課題です。

この記事では、そうした経営層の皆様が抱える不安や疑問を解消するため、AIセキュリティの全体像を徹底的に解説します。

  • AIが悪用されたサイバー攻撃の最新事例
  • AIを“活用”する上で生じる、見落としがちなリスク
  • 自社の現状を客観視できる、自己診断チェックリスト
  • 明日から始められる、具体的なセキュリティ対策

これらを読み解き、不安を具体策に変えることで、自社に最適なAI活用の道筋が見えてきます。本記事が、その判断の一助となれば幸いです。

そもそもAIセキュリティとは?

AIセキュリティの2軸(AIで守るセキュリティと、AIを守るセキュリティ)を表すフラットイラスト。中央のAIノードと盾のアイコンが組み合わさっている。

では、私たちが今まさに対策すべき「AIセキュリティ」とは、一体何を指すのでしょうか。

一言でいえば、AIセキュリティとは「AIを安全に利活用し、AIがもたらす新たなリスクから組織を守るための技術・考え方・対策のすべて」を指します。

これまでのセキュリティ対策は、ファイアウォールやウイルス対策ソフトのように、主に「外部からの不正な侵入」を防ぐことに重点が置かれていました。いわば、会社の門や扉に頑丈な鍵をかけるイメージです。

しかし、AIセキュリティはそれだけでは不十分です。なぜなら、守るべき対象とリスクの性質が根本的に異なるからです。

従来のセキュリティとの主な違い

従来のセキュリティAIセキュリティ
主なリスク外部からのサイバー攻撃、ウイルス感染外部からの攻撃に加え、AIへの入力による情報漏洩、AIモデル自体の脆弱性、AIによる意図しないアウトプット
守るべき対象サーバー、ネットワーク、PC、データ上記に加え、AIモデル、AIへの入力データ、AIの生成物

最も大きな違いは、「AIそのもの」が攻撃の標的となり、また「内部からの情報漏洩」の原因にもなりうるという点です。社員が善意でAIに情報を入力する行為が、結果として重大なセキュリティインシデントに繋がる可能性があるのです。

この「AIセキュリティ」には、大きく分けて2つの側面があります。

  1. AI “で” 守るセキュリティ (AI for Security): AIを優秀な「番犬」として活用し、サイバー攻撃の兆候を24時間365日監視・検知するような、AIを活用した防御策のこと。
  2. AI “を” 守るセキュリティ (Security of AI): AIそのものが攻撃者に乗っ取られたり、機密情報を漏洩させたりしないように、AI自体を安全に保つための対策のこと。

では、Security of AI(AIを守るセキュリティ)には、具体的にどのようなリスクが含まれるのでしょうか。代表的なリスクを7つに分類して整理します。

リスク分類内容想定される被害
①情報漏洩社員がAIに機密情報・個人情報を入力し、AI事業者のサーバー側に送信される企業秘密・顧客データの外部流出
②プロンプトインジェクション悪意ある入力で、AIに本来の指示を無視させたり、機密情報を吐き出させたりする攻撃社内データの引き出し・誤動作
③ハルシネーション(出力の誤り)AIが事実でない内容を「もっともらしく」出力し、それが顧客や社外に提供される誤情報による顧客対応ミス・法的責任
④モデル汚染(学習データへの攻撃)学習データに悪意あるデータを混入させ、AIの判断を意図的に歪める製品・サービス品質の劣化、不公正な判断
⑤敵対的攻撃(Adversarial Attack)人間には検知できない微小な改変を加えた入力で、AIの判断を誤らせる画像認識システム・自動運転等の誤判定
⑥サプライチェーンリスク利用しているLLM・API・プラグイン等の脆弱性経由でシステムが攻撃されるエコシステム全体の侵害
⑦AIエージェントの過剰権限自律的に動くAIに過度な権限を付与し、想定外の動作で損害が発生業務システム・取引先への影響

実際にAIが攻撃者に悪用されると、どのような事態が起こりうるのでしょうか。次の章では、背筋が凍るような実例を見ていきましょう。

【事例で学ぶ】AIを『活用する』ことで生まれる新たなセキュリティリスク

AIセキュリティの主要リスクと攻撃を表すフラットイラスト。中央の警告アイコンを取り囲むように、情報漏洩・プロンプトインジェクション・ハルシネーションなど7種類のリスクアイコンが配置されている。

AIの導入は、使い方を誤ればビジネスを加速させるどころか、企業の信頼を根底から揺るがしかねない「諸刃の剣」です。ここでは企業がAIを導入・活用する際に発生しうるセキュリティリスクを具体的な事例と共に見ていきましょう。

事例1:【情報漏洩】入力した機密情報が、全世界に漏洩するリスク

クラウドAIの利用における最大のリスクは、入力した情報が意図せず外部に漏洩することです。これを象徴するのが、韓国サムスン電子の事例と、OpenAI自身が公表したインシデントです。

  • サムスンの事例: 従業員が業務効率化のため、社外秘のソースコードや会議の議事録をChatGPTに入力。データが外部サーバーに送信され、AIの学習に利用されるリスクが発覚し、同社は生成AIの利用を一時禁止せざるを得なくなりました。
  • OpenAIの事例: ChatGPT自体のバグにより、一部ユーザーの氏名、メールアドレス、チャット履歴のタイトルなどが、他のユーザーから一時的に閲覧可能になるという情報漏洩事故が発生しました。

【このリスクの本質】 自社に全く悪意がなく、かつ厳格なルールを設けていても、従業員の利便性追求によるヒューマンエラーや、クラウドサービス自体の脆弱性という、自社でコントロール不可能な要因によって機密情報が漏洩するリスクが常に存在します。

事例2:【著作権侵害】AIが生成した文章や画像が、訴訟の火種に

企画書に挿入するイラスト、ブログ記事の文章、Webサイトのデザイン案などをAIに生成させる企業が増えています。しかし、その生成物が、AIの学習データに含まれていた他者の著作物を無断で複製・改変したものであった場合、企業は意図せず著作権侵害を犯してしまうリスクを負います。

実際に、画像生成AI「Stable Diffusion」の開発元であるStability AI社は、大手ストックフォトサービス「Getty Images」から「著作権で保護された1200万点以上の画像を無断で使用した」として提訴されています。

【このリスクの本質】 AIの学習データはブラックボックス化(=どうやって出力されたか中身がわからない)されていることが多く、生成物が何に基づいて作られたのかを企業側が完全に把握することは困難です。そのため、知らないうちに他者の権利を侵害し、高額な損害賠償やブランドイメージの毀損につながる可能性があります。

事例3:【ビジネス上の損害】AIの「もっともらしい嘘」を信じた結果

AIは時として、事実に基づかない情報を、さも事実であるかのように生成することがあります。これを「ハルシネーション(幻覚)」と呼びます。

海外では、ある弁護士がChatGPTに過去の判例をリサーチさせたところ、AIが「存在しない架空の判例」を複数生成。弁護士はそれに気づかず、架空の判例を正式な準備書面として裁判所に提出してしまい、制裁を科されるという事件が起きました。

【このリスクの本質】 AIの回答は非常に流暢で説得力があるため、人間は「正しいはずだ」と無意識に信じ込んでしまいがちです。ファクトチェックを怠ると、AIの誤った出力が誤った経営判断に直結し、実質的なビジネス上の損害を引き起こす危険性があります。

事例4:サムスン電子|ChatGPT利用許可からわずか20日で機密情報3件漏洩(2023年)

韓国の大手電機メーカー、サムスン電子では、2023年3月にデバイスソリューション(DS)部門でChatGPTの社内利用を許可したところ、わずか20日以内に少なくとも3件の社内機密情報の漏洩が発生しました。具体的には、半導体設備の計測用プログラムのソースコード、歩留まり計算用プログラムのソースコード、そして社内会議の録音内容(NAVER Clovaで議事録化したもの)がChatGPTに入力されたことが報告されています。

サムスンは緊急措置として、ChatGPTへ入力するプロンプトの容量を1024バイトに制限。同年5月にはChatGPTの社内利用を全面禁止し、社内専用AIサービスの構築に方針転換しました。

【このリスクの本質】社内AI利用ルールを定めて周知していても、便利さを前にすると「社員が悪意なく機密情報を入力する」という行動は防ぎきれません。技術的な制限(プロンプト監査・URLブロック・社内専用AI環境の構築)が必要です。

参照: PC Watch(インプレス)2023年4月4日報道 GIGAZINE 2023年4月10日報道

事例5:Air Canada|AIチャットボットの誤情報で航空会社が法的責任を負う(2024年)

カナダの航空会社Air Canadaでは、自社サイトのAIチャットボットが顧客のJake Moffatt氏に「葬儀のための割引運賃(bereavement fare)は搭乗後でも事後申請できる」という誤情報を提供しました。

実際には事後申請は認められておらず、氏は通常運賃で搭乗。後日割引申請が拒否されたため、Air Canadaを提訴しました。

2024年2月14日、ブリティッシュコロンビア州民事解決審判所は「AIチャットボットの誤情報に対し、企業は法的責任(過失による不実表示)を負う」と判決。Air Canadaに対し812カナダドルの賠償を命じました(Moffatt v. Air Canada, 2024 BCCRT 149)。

Air Canada側の「チャットボットは独立した法的主体」という主張は審判長に「驚くべき主張」として明確に却下されています。

【このリスクの本質】AIが顧客対応で誤情報を出した場合、その責任は企業にあります。生成AIのハルシネーション(事実でない出力)を制御する仕組み(RAG・出力監視・人間による確認フロー)と、利用規約での適切なリスク開示が必要です。

参照: CBC News(カナダ公共放送)2024年2月15日報道判決文 Moffatt v. Air Canada, 2024 BCCRT 149 

事例6:業務利用での「シャドーAI」|世界中で同様の事例が継続発生

サムスンの事例後も、社員が会社の許可を得ずに個人アカウントの生成AIを業務で利用する「シャドーAI」による情報漏洩は継続的に報告されています。米国大手では、サムスンの事例を受けてAmazon、Apple、Walmart、JPMorgan Chase等の金融機関が一時的または恒久的にChatGPTの社内利用を制限・禁止する措置を取りました。

日本国内でも、生成AIに業務情報を入力した経験がある社員の割合が一定数存在することが各種調査で報告されています。経済産業省・総務省も、こうした状況を踏まえて2024年4月に「AI事業者ガイドライン」を策定(後述)、2025年3月に第1.1版へ更新しています。

【このリスクの本質】「禁止」だけでは利便性を求める社員のシャドーAI利用を完全には防げません。許可ツールリスト・入力情報禁止リスト・教育研修・代替となる安全な社内AI環境の提供がセットで必要です。

参照: AdGuard公式ブログ「サムスン、ChatGPTの社内利用で情報漏洩」:経済産業省「AI事業者ガイドライン」公式ページ 

まずは現状把握から。AIセキュリティリスク自己診断チェックリスト

前の章で見たようなリスクは、決して対岸の火事ではありません。貴社では、安全にAIを活用するための準備が本当に整っているでしょうか?

以下の10個の質問に「はい/いいえ」で答えるだけで、自社のAIセキュリティにおける現状と課題が客観的に見えてきます。経営者、情報システム担当者の方はぜひチェックしてみてください。

【ガバナンス・ルール編】

  • □ はい / □ いいえ 質問1. AIの業務利用に関する、全社的なガイドラインやルールが明確に定められていますか?
  • □ はい / □ いいえ 質問2. 機密情報や個人情報、顧客に関する情報をクラウドAIに入力してはいけない、というルールが全従業員に周知徹底されていますか?
  • □ はい / □ いいえ 質問3. 従業員が意図せず、会社で許可されているAIツール以外のものを使ってしまっている可能性を、ルールやシステムにより排除できていますか?

【情報資産の保護編】

  • □ はい / □ いいえ 質問4. 会社で利用しているAIサービスの利用規約やプライバシーポリシーを読み、入力したデータがどのように扱われるか把握していますか?
  • □ はい / □ いいえ 質問5. ChatGPTの「オプトアウト申請」など、入力データがAIの学習に利用されないための設定を行っていますか?
  • □ はい / □ いいえ 質問6. 万が一、AI利用が原因で情報漏洩が発生した場合の報告手順や対応計画(インシデントレスポンスプラン)はありますか?

【生成物の取り扱い編】

  • □ はい / □ いいえ 質問7. AIが生成した文章や画像を、社外向けの公式資料やマーケティングコンテンツとして利用する際のチェック体制はありますか?
  • □ はい / □ いいえ 質問8. AIの生成物が、他者の著作権や知的財産権を侵害していないか確認するプロセスがありますか?
  • □ はい / □ いいえ 質問9. AIが生成した情報(市場分析、数値データ、判例など)の正確性を、人間の目でファクトチェックするルールになっていますか?
  • □ はい / □ いいえ 質問10. AIが出力したプログラムコードをシステムに組み込む際、そのコードにセキュリティ上の脆弱性がないか実際に確認していますか?

いかがでしたでしょうか。

もし、「いいえ」が一つでもあったなら、そこが貴社のAIセキュリティにおける弱点(セキュリティホール)になる可能性があります。特に「いいえ」が3つ以上あった場合は、AI活用に潜むリスクがかなり高い状態と言わざるを得ません。

「うちは大丈夫だろう」という根拠のない自信が、取り返しのつかない事態を招くこともあります。まずは自社の現状を正しく認識することが、対策の第一歩です。

では、このチェックリストで見つかった課題に対して、具体的に何から手をつければ良いのでしょうか。

明日から始めるAIセキュリティ対策10項目チェックリスト

AIセキュリティ対策の実行を表すフラットイラスト。盾とチェックマークが並ぶリストの周りに、ガイドライン文書・教育・モニタリングなど対策アイコンが配置されている。

「何から始めればいいか分からない」という担当者に向けて、すぐに着手できる10項目を整理しました。難易度や費用感の目安も併記していますので、自社の状況に合わせて優先順位をつけて実施してください。

#対策項目内容難易度効果
1社内ガイドライン策定AI利用の基本ルール・禁止事項・責任範囲を文書化★★★
2許可ツールリスト整備利用可ツールを限定し、それ以外(無料版・個人利用)を禁止★★★
3入力禁止情報リスト整備機密情報・個人情報・契約NDA情報など、AIに入力してはいけない情報を具体例付きで明示★★★
4法人向けプラン採用ChatGPT Enterprise・Copilot for Microsoft 365等、入力データが学習に使われない法人プランを採用★★★
5利用ログの取得・監査誰がいつ何を入力したかを記録し、定期的に監査★★
6社員研修の実施安全なプロンプト記述・情報セキュリティの基礎教育を全社で実施★★★
7技術的アクセス制限無料版生成AIへのURLブロック・プロキシによる入力監視★★
8RAG・出力監視導入ハルシネーション抑制のためRAG構築・重要な出力には人間レビューを義務化★★
9ローカルLLM導入検討機密性が極めて高い業務には、外部にデータが出ないローカルLLMの導入を検討★★★
10インシデント対応計画漏洩・誤動作発生時の連絡・隔離・原因調査・再発防止のフロー策定★★

次の章では、明日からでも始められるAIセキュリティ対策と基本ステップを解説します。

今すぐ始めるべきAIセキュリティ対策の基本

クラウドAIとローカルLLMの違いを表すフラットイラスト。左側にクラウドアイコンと外部に向かって流れるデータ、右側に閉じた建物の中で安全に動作するAIノードが描かれ、データが社外に出ない構造を象徴している。

チェックリストで自社の課題が見つかったとしても、過度に恐れる必要はありません。AIのリスクは、基本的な対策を一つひとつ着実に実行していくことで、大幅に低減させることが可能です。

何から手をつければ良いか分からない、という方のために、ここでは特に重要な5つの基本ステップをご紹介します。

STEP1:全社的な「AI利用ガイドライン」を策定する

これがすべての基本であり、最も重要なステップです。場当たり的な利用がリスクの温床となるため、まずは会社としての方針を明確なルールに落とし込みましょう。ガイドラインには、最低限以下の項目を盛り込むことをお勧めします。

  • 利用を許可するAIツール: 会社がセキュリティを確認し、公式に利用を認めるAIツールをリスト化します(ホワイトリスト方式)。
  • 入力禁止情報の定義: 機密情報、個人情報、顧客情報、非公開の財務情報など、AIへの入力やアップロードを固く禁じる情報を具体的に定義します。
  • AI生成物の取り扱いルール:
    • ファクトチェックの義務化: AIの出力を鵜呑みにせず、必ず人間の目で事実確認を行う。
    • 著作権・機密性の確認: 社外公開するコンテンツに利用する際は、著作権侵害や情報漏洩のリスクがないか、複数人でチェックする。
  • 相談窓口の設置: 利用にあたって判断に迷った場合の相談部署(情報システム部など)を明記します。

STEP2:従業員への教育と周知を徹底する

ガイドラインは、作って終わりでは意味がありません。なぜこのルールが必要なのか、その背景にあるリスク(サムスンの事例など)を全従業員が正しく理解してこそ、初めて実効性のあるものになります。

  • 全社研修やeラーニングなどを実施し、ガイドラインの内容とAIのリスクについて学ぶ機会を設ける。
  • 「効率化のため」といった善意によるルール違反が、会社にどれだけの損害を与えうるかを具体的に伝え、当事者意識を持たせる。
  • 定期的にリマインドを行い、知識の形骸化を防ぐ。

STEP3:技術的な設定でリスクを低減する

ルールや教育だけでは防ぎきれないヒューマンエラーなどを、技術的な設定でカバーします。

  • 「オプトアウト」設定の実施: ChatGPTなどのサービスには、入力したデータをAIの学習から除外する「オプトアウト」という設定があります。会社として利用を許可するツールについては、管理者がこの設定を必ず行いましょう。
  • アクセス制限: 可能であれば、ネットワーク機器(プロキシサーバーなど)を設定し、会社が許可していないAIサービスへのアクセスを物理的にブロックすることも有効です。

STEP4:利用状況の監視と定期的な見直しを行う

ガイドラインが遵守されているか、新たなリスクが生まれていないかを定期的にチェックする仕組みも重要です。

  • 許可したAIツールの利用ログなどを確認し、不審な利用がないか(例:深夜に大量のデータが入力されているなど)を監視する。
  • AIを取り巻く状況は日々変化するため、ガイドラインの内容を少なくとも半期に一度は見直し、最新の状況に合わせてアップデートする。

STEP5:インシデント発生時の対応計画を立てる

どんなに対策をしても、リスクをゼロにすることはできません。「もし情報漏洩が起きてしまったら」を想定し、インシデント発生時の報告ルート、対外的な公表の判断基準、初動対応などを定めた計画(インシデントレスポンスプラン)をあらかじめ用意しておくことも、経営者の重要な務めです。

これらの対策は、クラウドAIを安全に利用するためには不可欠です。

しかし、お気づきでしょうか。これらの対策をどれだけ完璧に行っても、従業員のちょっとした気の緩みによるヒューマンエラーのリスクや、OpenAIの事例で見たようなクラウドサービス自体に潜む脆弱性のリスクを、完全にゼロにすることはできないという事実を。

では、特に重要な機密情報や個人情報を扱う上で、より根本的で安全なAIの活用方法はないのでしょうか。

次の章では、これまで述べてきたクラウドAIのリスクを根本から回避する、もう一つの選択肢について詳しく解説します。

【結論】クラウドAIのリスクを回避する、もう一つの選択肢「ローカルLLM」

AIセキュリティ対策の基本ステップを表すフラットイラスト。中央のチェックマーク付きシールドを起点に、ルール策定・社員教育・技術的対策・運用監視の4つのアイコンが矢印で結ばれ、すぐに着手できる行動を示している。

これまでの章で、クラウドAIの利用には、対策を講じてもなお残り続ける根本的なリスクがあることをご理解いただけたかと思います。

「では、企業の生命線である機密情報や顧客情報を扱う上で、本当に信頼できる選択肢はないのか?」

その問いに対する最も有力な答え、それこそが「ローカルLLM」です。

そもそも「ローカルLLM」や「クラウドLLM」が何かわからない、という方はこちら!

ローカルLLMとは?始め方からPCスペックまで

 なぜローカルLLMはセキュリティに強いのか?

ローカルLLMとは、その名の通り、自社の管理下にあるサーバーやPC(=ローカル環境)の中だけで動作させる大規模言語モデルのことです。

クラウドAIが「外部の優秀なコンサルタント」にインターネット経由で相談するようなものだとすれば、ローカルLLMは「自社内にいる、極秘情報を扱う専属アドバイザー」に相談するようなもの。その最大の特徴は、入力したデータや指示が、一切会社の外に出ていかないという点にあります。

この仕組みにより、クラウドAIが抱える根本的なリスクを構造的に解決できるのです。

  • 情報漏洩リスクの根絶 データが外部のサーバーに送信されないため、サムスンの事例のような「学習データ化による漏洩」や、OpenAIの事例のような「サービス側のバグによる漏洩」のリスクが原理的に発生しません。
  • 完全なオフライン運用 インターネットから物理的に切り離された環境で運用できるため、外部からのサイバー攻撃や不正アクセスの影響を受けません。まさに「鉄壁のセキュリティ」を実現できます。
  • 業務に特化した高度なカスタマイズ 自社の専門的なデータや社内文書だけを追加学習させることで、外部情報を一切混ぜることなく、「自社のことなら何でも知っている専用AI」を安全に育成することが可能です。

 クラウドAI vs ローカルLLM 徹底比較

もちろん、ローカルLLMは万能ではありません。ここで、両者のメリット・デメリットを客観的に比較してみましょう。

観点クラウドAI (ChatGPTなど)ローカルLLM
セキュリティ△ (根本的な情報漏洩リスク)◎ (データを外部に出さない)
カスタマイズ性△ (サービス提供者の範囲内)◎ (自社データで自由に学習)
オフライン利用× (必須)◎ (可能)
導入・運用◎ (手軽、専門知識不要)× (専門知識、高スペックな機材が必要)
コスト○ (月額利用料など)△ (初期投資、運用人件費)
最新性◎ (常に最新モデルが利用可能)△ (自社でのアップデートが必要)

この表から分かる通り、手軽さや最新性を求めるならばクラウドAIに軍配が上がります。

しかし、「セキュリティ」を何よりも最優先し、企業の根幹をなす機密情報や顧客の個人情報を扱う業務においては、ローカルLLMが唯一無二の選択肢となり得るのです。

「自社のあの業務には、クラウドAIは危険すぎるかもしれない…」 「顧客情報を扱うチャットボットを、安全に自社開発できないだろうか?」

もしそうお考えなら、ローカルLLMは検討するに値する強力なソリューションです。次の最後の章で、本記事のまとめと、その第一歩を踏み出すためのネクストアクションをお伝えします。

AI事業者ガイドライン・NIST AI RMF・EU AI Act|押さえておくべき3つの規制動向

AIをめぐる国内外の規制動向を表すフラットイラスト。日本・米国・EUの3つの建物アイコンが横並びに配置され、それぞれの上にバランスのとれた天秤が描かれている。

AIセキュリティ対策は、自社内のルール整備だけでなく、国内外の規制・ガイドラインへの準拠も重要です。特に2024〜2025年は、日本・米国・EUのいずれでもAI関連の枠組みが大きく整備された年でした。企業として最低限把握しておくべき3つを整理します。

規制・ガイドライン所管位置づけ適用範囲・特徴
AI事業者ガイドライン(第1.1版)日本:総務省・経済産業省(2025年3月28日公表)非拘束のソフトロー(業界自主指針)AI開発者・提供者・利用者の3主体別に取り組むべき指針を整理。生成AI・EU AI Act対応など追記。リビングドキュメントとして継続更新
NIST AI Risk Management Framework(AI RMF)米国:NIST(米国国立標準技術研究所)(2023年1月公表)非拘束だが米国政府機関の事実上の参照基準信頼できるAIの7特性(安全・安心・公平・プライバシー強化等)を提示。グローバル企業が広く参照
EU AI Act(EU AI規制法)EU:欧州連合(2024年8月発効)法的拘束力あり(違反時は制裁金)AIシステムをリスクレベル別に分類。高リスクAIには厳格な要件。EU域内でAIを提供する企業は対象

日本企業が最初に押さえるべきは「AI事業者ガイドライン」です。2025年3月の総務省調査では、認知度79%・活用率40%とまだ実装が進んでいないものの、国内のAIガバナンスの基礎となる文書です。利用者向けには「別添7 チェックリスト」も提供されており、自社のAI活用状況を点検する出発点として有効です。
参照: 経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版): NIST AI Risk Management Framework(公式) : EU AI Act(欧州議会公式情報) 

まとめ|自社にあったAIセキュリティ対策で安全なAI活用を

AI活用におけるセキュリティ対策、その要点は「リスクを正しく理解し、情報の重要度に応じてツールを使い分ける」ことに尽きます。

一般的な業務には便利なクラウドAIを。そして、会社の生命線である機密情報や顧客データには、データを一切外部に出さない「ローカルLLM」を。この使い分けこそが、これからの時代のスタンダードです。

自社の情報を鉄壁のセキュリティで守りながら、AIの恩恵を最大限に引き出す。そのための具体的な方法論を、以下の記事で詳しく解説しています。

【あわせて読みたい】 ローカルLLMとは?始め方からPCスペックまで

また、弊社株式会社EQUESはAIセキュリティやローカルLLMの導入についてのご相談も受け付けています。ぜひお気軽にご相談ください。

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