「品質保証業務が属人化しており、特定の担当者が休むと現場が回らない」
「ダブルチェックをしていてもヒューマンエラーが完全になくならない」
品質保証(QA)部門やDX推進室の責任者様であれば、こうした「人手頼み」の限界に頭を悩ませることも多いのではないでしょうか。
特に、製造業における熟練工の引退や、製薬業における膨大なGMP文書管理など、業界を問わず「品質保証の自動化・高度化」は待ったなしの課題となっています。
近年、この領域ではAI品質保証というキーワードが注目を集めています。これまで人間の経験や勘に依存していた検査や文書作成を、AI(人工知能)によって代替・支援する動きです。しかし、「AIで何ができるのか」「実際に成功している企業はあるのか」といった具体的なイメージを持つのは難しいかもしれません。
この記事では、AI品質保証の基礎的な定義から、トヨタ自動車や万協製薬といった大手・先進企業の具体的な導入事例までを網羅的に解説します。
弊社、株式会社EQUES(エクエス)は、東京大学松尾研究室発のベンチャー企業として、最先端のAI技術を用いた「伴走型技術開発」を行っています。その知見をもとに、貴社の品質保証プロセスを次世代型へと変革するためのヒントをお届けします。
AIとは何か、基礎から勉強されたい方はぜひこちらを参考にしてください!
目次
1. AI品質保証とは?
「AI品質保証」という言葉には、大きく分けて2つの意味が含まれています。自社の課題がどちらに当てはまるか、まずは定義を整理しましょう。

1. AI for QA(品質保証のためのAI活用)
今回の記事で主に取り上げるテーマです。
製品やサービスの品質をチェックする工程にAIを導入することを指します。
- 外観検査:画像認識AIを用いて、製品のキズや異物を検知する。
- テスト自動化:ソフトウェアのバグをAIが自動で探索・修正提案する。
- 文書点検:規制に準拠した書類(GMP文書など)の作成・整合性チェックをAIが担う。
2. QA for AI(AIそのものの品質保証)
こちらは「開発したAIモデルが正しく、安全に動くこと」を保証する取り組みです。
従来のソフトウェア開発(ウォーターフロー型)と異なり、AIはデータによって挙動が変わる「帰納的」なシステムであるため、100%の動作保証が困難です。
そのため、「QA4AIガイドライン」などが策定され、以下の5つの軸で品質を評価することが標準となりつつあります。
- Data Integrity(データの完全性)
学習データに偏りや誤りがないか、要件に合ったデータが十分に用意されているかを評価します。「ゴミを入れればゴミが出てくる(GIGO)」というAIの原則通り、最も重要な基礎部分です。 - Model Robustness(モデルの頑健性)
ノイズや未知のデータが含まれていても、AIが誤動作せずに安定して判定できるか(ロバスト性)を見ます。例えば、工場の照明が少し暗くなっても正しく検査できるか、といった耐性です。 - System Quality(システム品質)
AI単体ではなく、システム全体として安全か、期待されるパフォーマンス(応答速度など)を満たしているかを確認します。 - Process Agility(プロセスの柔軟性・機敏性)
AIは一度作って終わりではなく、運用しながら再学習を繰り返します。モデルの更新や修正が迅速に行える開発・運用プロセス(MLOps)が構築されているかが問われます。 - Customer Expectation(顧客期待)
ユーザーやステークホルダーの期待値が適切かどうかの管理です。「AIなら何でもできる」という過度な期待はプロジェクト失敗の元となるため、AIの限界を共有し、期待値をコントロールすることも品質保証の一部とされます。
2. なぜ今、品質保証にAIが必要なのか
多くの企業がAI導入を急ぐ背景には、構造的な行き詰まりがあります。
1. 「2025年の崖」と熟練工不足
製造業を中心に、長年現場を支えてきた熟練技術者の引退が相次いでおり、後続の人材育成も追いついていないのが現状です。彼らが持っていた「言葉にできない違和感を察知する能力(暗黙知)」や経験を言語化・継承できないままでは、品質レベルを維持することが非常に困難になるでしょう。
レガシーシステムの刷新を推進できず、DXの実現が遅れると、2025年から2030年の間に日本全国で最大毎年12兆円発生する経済損失が生じるとされています。(これを「2025年の崖」と呼びます。)「品質保証の品質」を維持するためのDX推進は、企業の生命線に関わる急務となっています。
2. ヒューマンエラーの限界
人間による目視検査や文書チェックには、生理的な限界があります。疲労による見逃し、担当者ごとの判定基準(閾値)のバラつき、心理的なバイアスなどは、教育訓練だけでは完全には防げません。AIによる「疲れを知らない定量的な判定」が必要です。
3. 製品・規制の複雑化
ソフトウェアの機能肥大化や、医薬品におけるGMP(適正製造規範)規制の厳格化により、チェックすべき項目は指数関数的に増えています。人間が処理できる情報量を超えつつある現状を、AIの処理能力で補完する必要があります。
3. 【業界別】AI品質保証の導入事例と成果
実際にAIを導入し、品質保証プロセスを革新した企業の事例をご紹介します。
※リンク先は各事例の参照元です。
1. 【自動車・製造】トヨタ自動車株式会社 様
〜磁気探傷検査の自動化で「見逃しゼロ」を実現〜
自動車の足回り部品(フロントハブ)の検査工程において、AI画像検査システムを導入した事例です。
従来行っていた「磁気探傷検査」は、ブラックライトの下で微細なキズを目視で探す必要があり、非常に高度な熟練技能を要していました。
- 課題:従来の目視検査や既存設備では、欠陥の見逃し率が32%、良品を不良と判定する過検出率が35%も発生しており、品質担保と歩留まりのバランスに苦慮していました。
- 導入:ディープラーニングを用いた画像検査システム(WiseImaging)を導入し、熟練者の判定基準を学習させました。
- 成果:
- 見逃し率(流出リスク):0%を達成。
- 過検出率(歩留まり低下):8%以下へ大幅改善。
- 人による検査リスクを排除し、省人化と品質向上を同時に実現しました。
- 参考事例詳細(外部サイト)
2. 【インフラ・機械】ナブテスコ株式会社 様
〜風力発電機の故障予兆検知でダウンタイムを削減〜
製品出荷後の「品質維持」という観点で、予知保全にAIを活用した事例です。
風力発電機の故障は、修理のための停止時間(ダウンタイム)が巨額の損失につながるため、壊れる前の対応が重要でした。
- 導入:異常検知ソリューション「Impulse」を活用し、振動や温度などのセンサーデータから「いつもと違う」挙動をAIが検知する仕組みを構築。また、作業員の動き(骨格検知)から、正しく作業が実行されたかをAIで保証するアプローチも進んでいます。
- 成果:故障の予兆を早期に発見することで、計画的なメンテナンスが可能になり、突発的な停止による機会損失を防ぐことに成功しました。
- 参考事例詳細(外部サイト)
3. 【ソフトウェア】株式会社MagicPod 様(ツール活用例)
〜AIによるテスト自動化でメンテナンス工数を削減〜
ソフトウェア開発におけるテスト工程の自動化事例です。従来のテスト自動化ツールは、アプリのUI(ボタンの位置など)が少し変わるだけでテストが動かなくなるという課題がありました。
- 導入:AIテスト自動化プラットフォーム「MagicPod」を活用。
- 機能:AIが画面の要素を賢く認識するため、UI変更があってもテストスクリプトを自動で修正(自己修復)します。
- 成果:テスト作成・維持にかかる工数を劇的に削減し、開発サイクルの高速化(Process Agilityの向上)に寄与しています。
- 参考情報(外部サイト)
4. 【製薬業界】EQUESが実現した「文書作成の自動化」事例

ここまで製造業やソフトウェアの事例を見てきましたが、文書(ドキュメント)の品質保証において大きな成果を上げている事例として、弊社EQUESの取り組みをご紹介します。
製薬GMP文書の課題
製薬業界では、医薬品の品質を保証するために「GMP(適正製造規範)」に基づいた厳格な文書管理が義務付けられています。
製造手順書、逸脱報告書、変更申請書など、作成すべき書類は膨大です。これらは専門用語が多用される法的文書であり、かつ整合性が求められるため、作成とレビュー(確認)に現場のリソースが圧迫されていました。
導入事例:万協製薬株式会社 様
外用剤の受託製造を行う万協製薬様では、熟練者に依存していた文書作成業務を変革するため、弊社の生成AIサービスQAI Generatorを導入されました。
1. 導入サービス:QAI Generator(キューアイ ジェネレーター)
製薬業界特有のデータや法規制を学習したAIモデルに対し、簡単な質問に答える(または箇条書きを入力する)だけで、必要な書類案を自動生成するSaaSです。
2. 具体的な成果
導入後、文書作成プロセスにおいて以下の劇的な効率化が確認されました。
- 文書作成時間:5割(50%)カット
ゼロから文章を考える時間がなくなり、AIが提案したたたき台を修正するフローへ移行しました。 - レビュー時間:7割(70%)以上短縮
「てにをは」のミスや用語の不統一が激減したことで、承認者(管理者)が修正指示を出す手間が大幅に減りました。 - 業務効率:全体で約70%向上
空いた時間を、より本質的な品質改善活動や教育に充てることが可能になりました。
なぜEQUESが選ばれるのか
EQUESは東京大学松尾研究室発のベンチャーとして、単なるツール提供にとどまらず、以下のような多層的な伴走型支援を行っています。
- QAI Generator:製薬GMP文書作成に特化したSaaS。
- AIDX寺子屋:東大出身のAI専門家集団が、チャットでAIに関する技術相談や困りごとに即座に回答する「AI顧問」のようなサービス(月額20万円〜)。
- ココロミ:大規模開発を行う前に、小規模かつ低コスト(月額250万円〜)でPoC(概念実証)を行うサービス。リスクを抑えてAIの効果を検証できます。

4. 失敗しないための「守り」の技術:品質カードとMLOps
AI導入にはリスクがつきものです。「導入したけれど、現場で使われなくなった」という失敗を防ぐために、先進企業が実践している運用面での工夫をご紹介します。
1. リスクを可視化する「品質カード(Quality Card)」
AIは万能ではありません。「雪の日の画像は学習していない」「特定の条件下では精度が落ちる」といった弱点があります。これを開発者と利用者が共有していないと、重大な事故につながります。 そこで推奨されるのが、AIの性能限界や利用条件を明文化した品質カードの作成です。
- 記載項目の例:
- 学習データの範囲(期間、天候、機種など)
- 検証できていない条件(例:大雪の日はテスト未実施)
- 運用ルール(例:信頼度が80%以下の場合は人間が目視確認する)
- 想定されるリスクと対処法
- これを現場に提示することで、「AIが間違えた」というトラブルを防ぎ、適切な人間との協働体制を築くことができます。
2. ブラックボックス化を防ぐ「二重化」と「モニタリング」
AIの判断根拠は人間には理解しにくい(ブラックボックス)場合があります。安全性を担保するために、AIを単独で使わないという設計が重要です。
- 二重化(Redundancy): 「ブラックボックス型の高精度AI」とは別に、判断ロジックが明確な「ルールベースのAI」や「従来の監視システム」を併用し、AIが異常な値を出しときにはシステム側でブレーキをかける仕組みです。
- MLOpsと継続的モニタリング: AIの精度は、導入直後がピークで、現場の環境変化(照明の劣化、新製品の投入など)とともに徐々に落ちていきます(ドリフト現象)。 これを防ぐため、稼働中のAIの精度を常時監視し、精度低下を検知したらアラートを出したり、自動で再学習を行ったりする基盤(MLOps)を整えることが、長期的な品質保証の鍵となります。
5. AI品質保証を導入するための4つのステップ

AI導入を成功させるには、いきなり大規模なシステムを入れるのではなく、段階的なアプローチが鉄則です。
Step 1:要件定義とターゲット選定
「どの業務をAIにするか」を決めます。
- 判断基準が明確なもの(良品/不良品の画像がある、など)
- 繰り返し発生し、工数を圧迫しているもの
- 人間によるミスが多いもの
これらがAI導入の「狙い目」です。
Step 2:データの準備(最重要)
AIの精度はデータの質で決まります(Data Integrity)。
外観検査なら「欠陥の種類ごとの画像」、文書作成なら「過去の高品質な報告書」などを収集・整理します。この段階で専門家のアドバイスを受けることで、後々の手戻りを防げます。
Step 3:PoC(概念実証)
実際のデータを使って小規模なAIモデルを作り、「本当に使える精度が出るか」「現場のオペレーションに組み込めるか」を検証します。弊社のPoC「ココロミ」サービスはこのフェーズに特化しています。
PoCについて詳しく解説した記事もございますので、興味をお持ちの方はこちらをご覧ください。
Step 4:本番導入と運用監視
PoCで効果が確認できたら、システムを本格導入します。
AIは導入して終わりではありません。先述の通り、経年変化や製品仕様の変更に合わせて、定期的に再学習を行う運用体制(MLOps)を整えることが、品質維持の鍵となります。
まとめ
本記事では、AI品質保証の定義から最新の導入事例までを解説しました。
- AI品質保証の構造:「AI自体の品質を測る(QA4AI)」視点と、「AIで業務を効率化する(AI for QA)」視点の両方が重要。
- 導入の効果:ヒューマンエラーの撲滅(見逃し0%)、予知保全によるダウンタイム削減、そして文書業務の70%効率化など、多岐にわたる。
- 成功の鍵:「品質カード」によるリスク共有と、継続的な監視(MLOps)による運用体制の構築。
AIは「魔法の杖」ではありませんが、正しい手順と適切なパートナーを選べば、現場の疲弊を解消し、品質保証のレベルを一段階引き上げる強力な武器となります。
「自社の品質保証業務のどこにAIが使えるか診断したい」「GMP文書作成の負担を減らしたい」とお考えの方は、ぜひ一度EQUES(エクエス)にご相談ください。
製薬分野に強く、アカデミアの知見を持つプロフェッショナルが、貴社の課題に寄り添った解決策をご提案します。